どんぐりと民主主義 PART2(8)

運動を転がしていく

宮台―― このあいだの都知事選のとき、保坂区長に、宇都宮健児さんを支持しろというプレッシャーがあったんです。僕の考えでは、絶対にダメ。事前の調査で宇都宮さんが負ける可能性が高いのはわかっていたし、自民党議員団にとって「飛んで火に入る夏の虫」です。「こいつは共産主義者だ」とレッテル貼りをされます(笑)。

脱原発を掲げていなくても、普通に考えて東電とのタフな交渉をしてきたのは猪瀬直樹さんですよね。たしかに人格に問題があるかもしれないけれど(笑)、新宿区にありながら東電社員とその関係者しか利用できなかった東京電力病院の売却を含めて、東電との交渉について実績があるのは、明らかに猪瀬さんです。

世田谷区が独自のエネルギー行政を進めていくうえで、猪瀬支持と宇都宮支持とどちらが戦略的に有効か。結論はあまりにも明白です。宇都宮健児さんを支持することはありえません。こういうふうに考えられるかどうかが、政治的成熟というものなんですね。

宇都宮さんは脱原発を掲げていたので僕や保坂さんと近いようにも見える。でも、僕たちは政治に関わっている以上、「終わりよければすべてよし」です。つまり現に脱原発ができるかどうかだけが問題で、脱原発を叫んで溜飲を下げられるかどうかは二次的です。さっき言ったように新たなリアリティをつくりだせればOKです。

さらに運動は「転がしていく」ことが大事です。たとえば住民投票をして道路建設が支持されてしまったとします。でもその過程で情報をシェアしてみんなで話し合う癖をつけていたら、道路ができたあとにそれをどうするのかということについてもコミュニケーションをつなげていける。つまり「転がしていく」んですね。

同じことですが、原発都民投票条例が一応法定署名数を得たのにもかかわらず、議会で否決されても、がっかりする必要はない。ヘタに条例が通ったりすると、まさに溜飲が下がって、「もういいや」となってしまいがちです。そうではなくて、否決されたあとに、どうして否決されたのか考えて「転がしていく」んです。

採決のときに賛成をしなかった民主党都議会議員は、撮影された写真で分析すると、多くが電力労組に関連する議員です。このネタをどうやって使うかです。落選運動ないし当選運動につなげてもいいし、それを前提にして議員さんたちと取り引きしてもいい。いろいろな転がし方ができるでしょう。

いままでも住民投票の本義だということで、情報を伝えることをやってきました。議会で否決されてからは、この課題がますます重要になって、もっと議員さんたちに働きかけていかなければならないと思います。そのときのポイントは、さっき言ったように「僕たちの運動はイデオロギーではなくてお金です」と伝えることです。

実際、いま全地球的に地震の活動期に入りました。三〇年以内にふたたびシビア・アクシデントが起きる可能性が少なくありません。もし二度目の大きな原発災害が起これば、原発被害が起こった場所に限らず、原発の立地地域から人は一挙に逃げていき、地価は目も当てられないほど下がります。つまり、立地地域は終わりです。

私は静岡や新潟の「原発」県民投票の応援もしていますが、そこでも同じことを言っています。現に、浜岡原発付近では、スズキ自動車を含めて工場がどんどん逃げ、ものすごい勢いで地価が下がって新しいリゾートマンションはつくれません。こうした現象は、二度目のシビア・アクシデントですべての立地場所で起こります。

人は逃げ、土地の買い手はいなくなり、企業の誘致なんて絶対にできなくなる。そのことをご理解のうえでの原発推進なのですね、と念を押していく。そうやって、イデオロギーではなく、お金のために申し上げていることをわかってもらう。小平も同じです。お金を儲けたいなら、道路をつくってオシマイにしていたらダメです。

単に環境をこわす道路はイヤだという戦い方ではなく、経済的にも社会的にも持続可能な、どんな街をつくっていくのか、ということをちゃんと考えるための契機として、道路の問題を使うんだという構えでやっていかないと、コミュニケーションを「転がしていく」ことはできません。

中沢―― この道路をつくらない方向で、しかも小平の街を住みよい新しい街に発展させていくためのヴィジョンを含めたかたちで、「どんぐりと民主主義」の運動は発展させなければいけないと思っています。

國分―― ちょうど道路ができるあたりは小平市の観光スポットなんです。人びとが遠くからわざわざ来てくれる、ある意味で非常に高い経済的価値をもっている場所なんですよね。経済的合理性から考えても、なんであそこの森をなくすんだという議論ができる。

宮台さんがおっしゃった「溜飲を下げて終わりにしない」というのは、非常に重要だと思います。今回、署名が思っていた以上に集まりました。必要数の二倍以上の数です。でも、この運動には「それで気持ちよくなって終わっちゃいけない」ということがわかっている人たちがたくさんいます。署名簿を提出したあとも、市議会議員や市長にハガキを送る運動をしている。署名が集まったあとも運動はさらに活発になっている。

これが転がしていくということですね。運動を続けるなかで、ひとりひとりがいろいろな「気づき」を得ました。たとえば署名集めをしていると、道路になんてぜんぜん関心ないという人にも会います。でも、一対一ですこしずつ話をしてみると、そういう人も理解を示してくれるようになる。署名集めの段階で多分そういう経験がいくつもあったと思う。僕も手応えを感じました。そのひとつひとつの経験、「気づき」が、運動を転がしていくことにつながっていくように思います。

宮台―― 「転がしていく」ための戦略的な方法をお話しましょう。原発がわかりやすい例です。「原発ですか、脱原発ですか」と住民投票をするとだいたい脱原発が勝ちます。いまの日本でもそうです。日本の世論の七割以上が再稼働に反対です。ちなみに原発が五九基もあるフランスでも、世論の七割以上が原発反対です。

でも、このあいだの総選挙のとき、「選挙の争点として重視しますか?」と聞くと、「重視する」という人間は、一七パーセントしかいませんでした。基本的には景気対策、雇用対策、社会福祉なんです。「いまはそれどころじゃない」「おれはそれどころじゃない」とみんな言うわけです。だから、原発推進政党が圧倒的に勝利します。

だから、もし脱原発を掲げて選挙を戦うのなら、論理的に可能な唯一の方法は、「景気対策、雇用対策、社会福祉の問題に、実は脱原発こそが役立つのだ」というふうに話を持っていくことです。道路をつくる/つくらないという問題も同じです。「おれはそれどころじゃない」という人たちにとって重要な論点にからめるんです。

具体的には、社会福祉・雇用対策・景気対策などの生活争点のためにこそ実は道路をつくらないことが役に立つ、道路のかわりに然々の手法を使って経済をまわすことが役に立つ、と言っていくことが大事です。さもないと、道路をつくらないことに賛成する人が多いのに、選挙になると道路をつくる立場の議員が大多数になります。

当たり前です。地域の問題は道路だけではないからです。いろいろな問題がパッケージになって結びついています。だからこそ、道路をつくらないという選択が、それ以外の論点と絡みあって、小平市のリアルな将来像につながるんだと説得していくんです。道路をつくらないほうがリアルなヴィジョンなのだと説得するんです。

中沢―― その意味では、玉川上水の価値をもっと強調して、イメージ化していく必要があると思います。僕は自転車に乗って玉川上水を行き来するのが好きだから、どこが分断されていて、どこが良い景観になっていて、どこが作り替えられてしまってよろしくないというのはだいたいわかります。甲州街道のところでは大きく分断されていますが、それから先はある程度景観を保っています。

ところが、この道路ができると、玉川上水の風景が一変してしまう。グリーンの連続帯が途切れてしまう。これが与えるダメージというのを金銭的にも計算して、観光価値も考え、そしてそこに住んでいる人間に与えている玉川上水の富を全体として価値づけしていく必要があると思います。この玉川上水のグリーンベルトは、とても重要なんです。これが切り刻まれてしまったらと考えると、僕は動物の立場でかっかするんですね(笑)。それをはっきり位置づける必要がある。そういう運動をもちろんしてらっしゃるんですが、まだ足りない気がします。

どんぐりと民主主義Part2(9)へ