どんぐりと民主主義 PART2(9)

広い意味での再開発を

國分―― 最近の学問はやたら「エビデンス」、つまり「証拠」を出せと言いますよね。こういう自然環境の価値にエビデンスを出せよと言うような人に対して、たとえば宮台さんはどういう応答の仕方があると思いますか?

宮台―― 僕たちが空気に負けやすいと言われるのも、そのことに関係します。いま現実にまわっているシステムは、リアルなんです。原発や道路建設に対抗する社会と経済の全体に及ぶオルタナティブなパッケージをたとえ示せても、かたや現実にまわっているパッケージ、かたや「絵に描いた餅」だ、と人びとは思うわけです。

世田谷の場合もそう。世田谷電力構想を人に話すと「わかるけど無理だな」となります。現にまわっていないからです。そこで知恵を使う。「わかるけど無理だな」となるのは、いきなりトータルパッケージの話になるからです。実際、エビデンスを含めた代案を出せなどと言われると、トータルパッケージの提示は困難です。

だから、リアルで小さな説得的な話からはじめるんです。太陽光パネルをつけると一〇年以内にお金が降ってくるよ、とか、公共施設の電気を東電以外から買えば何千万円予算が浮くよ、とか、発送電分離を進めれば原発が好きな人は原発の電気を売る会社から買えるんだよ、とか。どれもリアルな話でしょう。

そうすると、リアルに感じられなかった大規模なシステム転換が、小さな一個一個のリアリティをベースに、二年、三年すると、いつのまにかリアルだと感じられるようになるんです。すると、「脱原発」などと声高に叫ぶまでもなく「東京電力から電気を買うなんて、マジ、ありえなくない?」というリアリティになります。

山本七平が『「空気」の研究』などで述べたように、日本人が縛られやすい「空気」は、臨在感や現前性――目に見えるがゆえの生々しさ――を鍵にします。だから、現にまわるシステムに対して、トータルパッケージの代案で勝負するのはむずかしい。であれば、一個ずつ、象徴的で戦略的な橋頭堡になるような実績を積めばいいんです。

たとえば、小平市の道路建設問題であれば、さきほどの二五〇億円の死に金について、それなら同じお金をこういうことに使えばどうですかと提案をして、通していくことからはじめるのはいかがでしょう。そのとき、誰が見てもそれはすばらしいと思うアイディアが見つかれば儲けもの。それも広い意味では経済的な再開発です。

ケインズという経済学者は「公共事業は、穴を掘り、埋めれば良い」と書いたんです。穴を掘るのも公共事業。埋めるのも公共事業。ザッツ・オール。たとえば沖縄の一部離島は、護岸化された海岸を自然堤防に戻すプロジェクトに着手して、お金がまわるようになって、雇用と需要が生じています。

その意味で、再開発や開発にはいろいろな方向があります。コンクリート化された堤防を自然堤防に戻すことだったり、コンクリートダムを緑のダムに変えることだったり、新住民が住む「国道20号線的な風景」を「旧市街の風景」にすることだったりもします。そういう再開発の提案をして経済と社会をまわすことが大切です。

中沢―― 玉川上水をもっと豊かにするという再開発もありなんです。

國分―― そうですよね。いろいろなやり方がある。それなのにいままでは、そうしたいろいろな可能性を話し合う機会さえ奪われてきた。自治は実現されてこなかった。「自治」という言葉はもしかしたらすこし古びているように思われるかもしれません。でも、実現されていない理念というものはいつでも新しい。

都道3・2・8号線計画に関しては、仮に住民投票が実現しても、そして、住民投票の結果として見直しを求める声が大きくなったとしても、まだまだ課題があります。さまざまな可能性を検討する場をどう設けていくかについてはいろいろな意見があるでしょう。でも、宮台さんがおっしゃったように、そこでこそ「知恵」を使わないといけない。反対か賛成かではないやり方を僕も考えていきたいと思います。

今日はほんとうに参考になる意見をたくさん伺うことができました。どうもありがとうございました。

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(二〇一三年二月二二日、小平市福祉会館市民ホールにて)

撮影:加藤嘉六

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