大変遅くなりましたが、2月6日(土)に開催した、小平市市民学習奨励学級「市民の思いが実現するまちづくりへ」第四回「交通ネットワークの設計・見直し・あるべき姿は?」(大森宣暁氏)の報告を下にアップしました。大森先生の講演は、そもそも交通とは何か、どう設計、見直しされるべきものか、という基本についてのお話しいただき、都市計画道路の整備の考え方の変遷、1980年代までの交通需要に併せた道路網の設計から、時差出勤やパークアンドライド(駅まで車、駅から電車)など、交通需要を抑えて必要な道路網を絞って整備していくという考え方に変わってきたこと、さいたま市の都市計画道路の見直しにも関わった経験から、都市計画道路の見直しの例を具体的に説明頂きました。
具体的な内容をまとめにしました。多くの方に報告をお読みいただけたらと思います。以下より、報告をダウンロードしてお読みいただくこともできます。
「交通ネットワークの設計・見直し・あるべき姿は?」(大森宣暁氏)報告
第四回 「交通ネットワークの設計、見直し、あるべき姿は?」
2016年2月9日
講師:大森 宣暁氏(宇都宮大学教授) 出席者:22名
交通とは?
都市社会の要素の「住む」「働く」「憩う」場所が異なるために移動する必要があり、「交通」が必要となる。交通とは、人の意志に基づく、人及び物の空間的移動をさす。広義の意味では、通信も交通に含まれる。交通は大きく二つに分類される。一つは、散歩、サイクリング、旅行、ドライブなど移動自身に価値がある場合で、本源的需要と呼ばれ、移動すること自体に意味がある。もう一つは、ある目的から派生する交通で、通勤、買い物、物流など、派生的需要と呼ばれ、移動の結果に価値がある。交通を理解するためには、その根源に活動があることを理解する必要がある。活動には、睡眠、食事など必需活動と、仕事、育児、買い物などの拘束活動がある。拘束活動の一部は、家族にお願いするなど、他者に依頼することもできる。そのほか、自由活動といって、趣味や娯楽の活動がある。
移動のプラスとマイナスの効用
移動には負の効用と正の効用がある。景色を見る、1人になれる、スマフォを見る、気分転換になるなどは、移動の正の効用である。例えば買い物に行くという場合、どこで、どんなものを買うか?様々な選択枝の中で、目的に合わせて、移動のプラスの効用、マイナスの効用の両方を計算して、最も効用の大きいものを人間は選択して活動している。独身、結婚、子育て世帯、退職高齢者世帯と、ライフスタイルステージによって、活動は、仕事、育児、自由時間、体力、財力、車(利用)などが変わる。街をコンパクトにしていくという動きもある。街をコンパクトにすると、生活している人も移動距離が減る。多くの自治体がコンパクトシティに向けた立地適正化計画をつくっている。
モビリティとアクセシビリティー
モビリティとは、個人の移動しやすさを表す。身体的条件、所得が高く交通費の支払い可能額が高いなどの経済的条件、平坦な街のほうが起伏の高い街や雪の町より移動しやすいなどの地理的条件、駅やバス停に近いなどの立地条件、免許の有無などの制度的条件、などによってモビリティの高い低いが変わる。アクセシビリティは活動しやすさを表す。ある場所から、ある場所への移動時間が短い、またお金がかからないほうが、アクセシビリティが高いといえる。30分以内に総合病院に到達できる人口の割合が高い街の方が、アクセシビリティが高いと言える。交通計画の目標は、モビリティとアクセシビリティを高めることといえる。
都市交通計画の考え方の変遷
都市交通計画の需要が供給を上回っていると交通問題が発生する。高度成長期から1980年代までは、需要に見合う供給(道路をつくる)をしようという考えだった。需要追随型アプローチという。1990年代からは、供給量だけ増やすのではなく、交通の需要を抑えようというアプローチへと変化してきた。必要な道路は作っていきましょう、しかし、不必要な自動車利用はやめましょう、という考え方になった。
80年ごろまでは、都市に人が増えてきて交通の供給側(道路)をどんどん作っていこう、という考えだったが、80年代になってから、信号制御を変える、右折左折レーンをつくるなどの考え方になった。90年代は、不必要な自動車量をおさえていこう(Traffic Demand Management : TDM)という考えになった。時差出勤、パークアンドライド(駅まで車で、駅から電車で移動する)、ロンドンで行われているロードプライシングという都心に入ってくる車からお金をとるなどの施策がとられはじめた。さらに土地利用計画と都市計画を一体的に考える政策、コンパクトシティなども、交通問題を解決するための施策といえる。
交通手段の分類と移動回数(トリップ)
交通手段には、いろいろある。1回の移動のことを1トリップという。一番身近な場所の移動は徒歩。次に自転車。さらに自動車が移動手段になるが、一度に移動できる人数は少なく、たくさんの人を移動させることができるのはバス鉄道など公共交通である。一人一日のトリップの回数は平均すると3回/日である。
道路の機能、道路網の種類
道路の機能は、交通機能と空間の機能にわけられる。交通機能は、トラフィック機能とアクセス機能にわけられる。トラフィック機能は、車・自転車・人を通行させる機能、アクセス機能は沿道の建物に出入りさせる機能。幹線道路は、トラフィック機能のほうがアクセス機能より高い。区画道路は、アクセス機能の方がトラフィック機能より高い。高速道路は、トラフィック機能だけ。国道はトラフィック機能が高い。住宅地の道路は、アクセス機能が支配的で、通過交通、抜け道としての利用は排除すべき。空間の機能は、都市の骨格を形成したり、景観を形成したり、良好な都市環境、風通し、採光、防災上の機能、避難路、延焼防止、電気、ガス、電話、上下水道を通す場所などとしてで、コミュニティの場、井戸端会議の場所などにもなっている。都市内幹線道路網には、格子状、はしご形、放射環状型などいろいろあるが、東京は放射環状型を目指している。
都市計画道路の見直しの例
さいたま市の都市計画道路の見直しの例を紹介する。同市では、将来の都市構造に着目して考えた。人口密度をどうしていくか、大宮駅ほか、核になる街を鉄道・道路で結んでいくという考え方。計画決定されたが未整備な都市計画道路が50%以上あった。それらを4つに分類した。I 20年以内につくる。II 着実な整備をする。IとIIは作りましょうという路線。IIIとIVは廃止しましょうという路線。IIIは、一度廃止にするが、将来の状況によって復活の可能性がある。IVは本当の廃止、Vは将来的に都市計画決定する可能性のある新路線。都市計画の目標の視点から分類した。交通機能の評価が多いが、空間的な評価もしている。25路線、40kmを廃止した場合、フル整備の場合と比較して、自動車の需要を10%減らせば、廃止しても渋滞レベルはあまり変わらないという評価をした。
またイギリスでは、道路がもつ交通(Link)機能と、人々のコミュニケーションの場や、子どもの遊び場など、人間行動に注目した場(Place)としての機能のそれぞれを評価して、将来の整備の方針を市民参加型でデザインしていった例もある。
交通需要予測について
まず現在の交通量を数式で表す。例えば1日1人あたりの移動回数3として、小平市の人口が18万人だとすれば54万トリップということになる。将来どうなるか、1人あたりの移動回数は3と変わらないという前提で、将来の人口がどうなるから交通量はどうなるか推定できる、これは簡単な例。4段階推定法という。50年前から使われている方法があるが、これに代わる方法がない。
4段階推計法では、まず東京を空間(ゾーン)に分割する。どのゾーンに移動(トリップ)が発生して、どのゾーンにトリップが集中するか発生集中を予測する。次にどこからどこに行くかの分布を予測して、いずれかの交通手段(車、鉄道)に分担して、道路についてはどの道路を通っていくか配分して交通量を予測していく。発生集中、分布、分担、配分と4段階で予測することから、4段階推定法という。世界中に計算するソフトウエアがあるので、元データを用意すれば計算することが出来る。
東京での交通量予測
東京では、1968年からパーソントリップ調査をやっている。サンプル数は100万人くらい、アンケート調査で、目的、交通手段、何時に出て何時につくか、という調査を行う。そこから20年後どうなるか?を予測する。1998年に、20年後の評価をした。渋滞、駅へのアクセス、CO2削減効果、災害に強いどうか、などの評価指標で、現状と比べてどれだけ改善するか比較して評価した。
ロードプライシングという政策により、ロンドンでは都心に入る車から1,500円~2,000円徴収する。東京でも昔検討したことがある。都市計画にも交通計画にも多様な利害関係者がいる。受ける便益、費用(損失)が立場によって異なる。ロードプライシングをした場合は、車で移動する人にとっては、お金を払わないといけないのでマイナス、しかし、早く行けるのでプラス。鉄道、バス、タクシー会社は利用者が増えるからプラスなど。立場の違う主体のメリット・デメリットを考えないといけないということがわかる。費用便益分析について、いろんな視点から定量的に評価していかないといけない。
道路整備計画に使われる費用便益分析
経済的な効率性を考えることが、費用便益分析法という。費用に対する便益の比であるB/C(ビーバイシー)を考える。道路の場合、費用は事業にかかる費用と維持費用、便益は、走行距離短縮便益、走行経費減少便益、交通事故減少便益の3つがある。走行距離短縮便益は、車一台あたり1分間移動時間が短くなると40円経費が安くなるという計算をして、1台で平均1.5人乗るとして、1日に交通量がどれだけあり、365日でどれくらい便益があるか計算する。複数の代替案のB/Cを計算して、それ以外の指標と併せてどの案がよいか決定していく。
まとめ
交通は毎日の生活活動の派生需要で、交通計画と土地利用計画を一体的に計画していくことが重要である。集約型土地利用は自動車の交通需要を減らせるし、高齢者・障害者・子ども・子育中の人も移動距離を短くし、自動車を使わず、徒歩・自転車・公共交通で暮らせることができるというメリットがある。高度成長期には、車が移動するための道路づくりが考えられてきたが、これからは人口が減るので、歩行者・自転車・公共交通・新しいパーソナルモビリティのための、さらに人々の活動の空間としての道路にしていくべきだろうと考えられる。高度成長期は、将来の需要を予測してそれに見合った供給を考える需要追随型アプローチだったが、今は、予測して需要が増えるなら、需要を減らす予防をすることが大事になってきている。とくに人口が減っていく社会では、市民参加が重要で、話し合って決めて実行していくのが交通計画の進め方になっていく。
以上(奨励学級企画チーム)