掲載紙2015年11月28日

2015年11月28日東京新聞朝刊「〈考える広場〉論説委員が聞く 相次ぐ住民投票 背景は? 間接民主制を活性化」一部

 成蹊大法科大学院教授 武田真一郎さん

20151128東京新聞武田先生-2

「井上 日本の住民投票は、投票成立の要件や投票結果の拘束力など、さらに検討すべき論点が少なくないように見えます。

 武田 例えば都市計画道路をめぐる一三年五月の東京都小平市の住民投票条例に盛り込まれ、投票を不成立にさせてしまった「50%条項」の問題があります。投票率を成立要件にすると、投票ボイコット運動を誘発し、争点がすり替えられてしまう恐れがあります。あまり少数の意見で決まってはいけないので一定の成立要件を設けるわけですが、投票率よりも、ドイツのように得票率を要件にした方が合理的でしょう。

 なぜ、ドイツが成立要件を定めているかというと、投票結果に拘束力があるからです。一方、日本の住民投票には拘束力がありません。憲法九四条は「地方公共団体は、法律の範囲内で条例を制定することができる」としています。このため、伝統的な見解では、地方自治法で定められている議会や首長の権限を条例に基づいて拘束することはできない、となるわけです。将来を考えれば、住民投票についての法整備を考える必要がありますね。

 井上 では、現状では、いくつもの壁を乗り越えて住民投票を行っても実効性は薄いということになるのでしょうか。

 武田 投票結果に法的な拘束力はなくとも、事実上の政治的な拘束力は非常に高い。これまで、実際に住民投票が行われれば、その結果があからさまに無視されたことは、ほとんどありません。

 民主主義が多数決原理、代表民主制だけではうまく機能しないことは、今の政治状況を見ているとよく分かります。民主主義は、政治に民意を反映させるためにあるはずです。民意を反映させるには住民の熟慮と参加が必要です。そうしなければ、多数を取れば何をしてもいい、という政治の在り方は変えられません。

 もちろん、選挙を超える民主主義の制度は、まだ発明されておらず、住民投票は選挙による間接民主制の原則に反する、という人もいます。でも、実際には、投票結果に従って議会や行政は軌道修正し、それによって住民が望む政策が実現している。ということは、住民投票は間接民主制を活性化させているわけです。機能不全を起こした間接民主制を補完し、本来の機能を回復させる。そこが非常に重要だと思います。」

広告