「街づくりにおける住民投票 -2000年以降の事例からみる住民による多数決のあり方に関する考察-」

早稲田大学法学研究科公法学専攻行政法専修の大滝優介さんに修士論文を送って頂きました。
「街づくりにおける住民投票 -2000年以降の事例からみる住民による多数決のあり方に関する考察-」(大滝優介)

大滝優介さんは、小平住民投票の情報公開裁判の傍聴、3・2・8号線現地を歩く会、勉強会などに参加されていた学生さんです。この2016年3月に修士課程を卒業されるそうです。

P3~P4の序論にある通り、厳しい成立要件が付された住民投票をより良い街づくりに活かすための活用法を検討することを目的とした論文で、小平市住民投票が、住民投票を修士論文のテーマとするきっかけになっています。街づくりに関する近年の18件の住民投票を丁寧に調べて考察した内容になっています。法学部で、憲法、地方自治法など、行政法をしっかり勉強した人の論文で、読み応えがあり勉強になります。以下、概要です。

第1章では、憲法95条による住民投票の解説、合併特例法や、2015年の大阪市の大都市地域特別区設置法による住民投票などが、憲法92条にある地方自治の本旨に則しているかという視点で解説しています。条例による住民投票は、有権者による直接請求、市町村長による提案、議員の提案の3種類(P10)があることに触れて、90年代後半から地方自治法の条例による住民投票が行われるようになり、事例が増えたことから、政府の地方制度調査会で、条例による住民投票が取り上げられて、とくに2011年には第30次地方制度調査会では、大規模な公共施設の建設について地方自治法の住民投票の既定を盛り込む改正案が示され、法律改正の動きもあったが結局は住民投票については盛り込まれなかったことなどの記載があります。(P17)

第2章では、住民投票とは何か、論点ごとに踏み込んでまとめています。間接民主制・二元代表制、地方選挙との関係について(P20)、アンケート、公聴会・住民説明会、審議会、パブリックコメント、市民会議、ワークショップなどの他の住民参加の仕組みとの関係(P21)、都市計画と住民参加の関係(P22)などについて書いています。さらに、住民投票で必ず話題になる論点である、結果の拘束力、投票資格者、対象事項、成立要件、住民の政策判断能力と情報提供などについて憲法や地方自治法などに基づいて記載をしています。

第3章では、2000年から2015年5月までの18件の「街づくり」に関する住民投票の事例を個別に解説しています。ここでは、18件の住民投票を3つのカテゴリに分類(重複もあることを前提に分類)しています。(P32)

  • 抵抗型 —政策のマイナス面を強く拒む形で、中止に追い込むことを目的とした住民投票
  • 利用型 —長や議会が自らの目的のために実施する住民投票で、さらに3つに分けて、(1)責任転嫁型、(2)お墨付き型、(3)反論封殺型に分類
  • 政策優先是正型 —ニーズの低い政策を中止させて、別のニーズの高い政策を行わせることを目的とした住民投票

さらに、18件の住民投票が成功といえるかどうかについて、以下6つの観点で、評価を行っています。

(イ)議論の成熟性
(ロ)他の住民参加制度とのすみ分け
(ハ)制度設計の適切性
(ニ)情報提供の適切性
(ホ)投票率の高さ
(へ)住民投票の結果が政策に反映されたか

小平市の住民投票は、住民の抵抗型であるが、成立要件をつけることによって、行政によって住民の意見を反論封殺する利用型(P61)となったと分類されています。小平市の住民投票の評価については、詳しくはP62以降の記述を読んでください。行政の住民参加の機会と情報の提供が不十分な場合には、住民側の精力的な意見表明、情報収集及び提供を行う必要があるとされているが、抵抗型ではこのような形になることは当事者としてよく理解できます。制度の適切性の観点からの小平市の分析も興味深いです。事業負担が全額東京都であることから、関心度が低まるとしながらも、建設地区が小平市で住民には実質的に計画見直しを求める手段がない以上、住民投票することは問題ないとしています(P67)。この点は、都市計画法における都市計画の権限や都道府県と市町村に役割に触れて、もう少しひもといて解説をしてもらいたかったと感じました。なお、その他の住民投票についても、詳細に調べて分析し、踏み込んだ意見が書かれており、興味深い内容になっていますので、是非、目を通して頂きたいです。とくに、多数行われている市庁舎建設に関する住民投票について、住民は短期的な見地から判断しがちになることと、予算に関しては本来的には議会の専決事項であることから住民投票の対象としてふさわしくないとしていることが興味深いです。住民参加について否定しているのではなくて、住民投票がなじまないという意味であることは言うまでもありません。

第4章が総括。第3章の分析から得られたこととして、以下を示しています。
(1)迷惑施設建設に対する住民投票であっても、計画がある程度具体性・実現性を帯びていれば投票結果が賛成多数になり得ること
(2)投票の結果反対多数となった後のプロセスを明らかにすることで、住民投票がより良い政策選択を導きうること
(3)住民投票の事業一次停止機能を用いた上で設問の問い方を工夫すれば、住民投票が政策の1と0の間を問い直す契機になること

「計画中止を前提とした住民運動」「複雑な問題解決に向かない手段」というイメージから脱却して、「より良い政策を選び取るための住民投票の位置づけ」と自治体全体で考え直す時期に来ているとしてまとめています。

(3)については、小平市の住民投票の住民参加による見直しの是非を問う、選択肢のことでもあり、わかりにくいと言われた選択肢でありますが、このように取り上げてもらったことは、うれしく思います。最後の結びには、現在の私たちの会の取り組みである街づくりに関する学習会や、3・3・3号線計画に対する取り組みについても触れて、エールを送ってくれています。(P99)

住民投票については、研究しているジャーナリストや学者はいるが、多いとは言えないし、広く知られているとは言えません。18件の住民投票に対する深い調査と、高いレベルの考察がなされているのと、正解を導くのが難しい、あるいは正解がない住民投票というテーマに対して、踏み込んだ見解を書いているのが素晴らしいと思いました。

最後に、大滝優介さんに心からの感謝の気持ちを述べつつ、社会人になってからもいろいろな社会の矛盾と向き合いながら、この研究成果を忘れずにご活躍されることを期待したいと思います。

(文責 神尾直志)

広告