小平市における都道3・2・8号線の住民投票に関する研究―住民意識調査から「投票率50%の成立要件」の意味を考える―

早稲田大学社会科学部卯月研究室の大学院生福地健治さんが小平市の住民投票に関する意識調査について論文にまとめくださいました。この内容は論文「小平市における都道3・2・8号線の住民投票に関する研究―住民意識調査から『投票率50%の成立要件』の意味を考える―」として、早稲田大学卯月研究室のHPで公開されています。内容について、概要と投票率による成立要件について整理しました。

 

福地さんは修士一年の学生ですが、一度社会に出て大学院に入られており実は私と同世代でした。昨年(2015年)、小平3・2・8号線現地を歩く会に来て下さり、ヒアリングをされました。そのときは、まさかこんなサプライズな論文を準備されているとは知らずに、2016年になって、この論文の話しを聞いたときは驚きました。

福地さんの論文は、株式会社マクロミルのインターネットアンケート調査により、2013年5月26日に行われた小平3・2・8号線計画の住民投票について、小平市の有権者272人に、年代、性別ごとに、住民投票の選択肢「住民参加による見直し」または「見直しは必要ない」のどちらに投票したのか、投票に行かなかった人からはその理由などをアンケートして、小平市が後出しで条例に付け加えた50%成立要件が投票に与えた影響などを分析しています。

小平3・2・8号線の住民投票は、50%成立要件に阻まれて不成立、その後の情報公開裁判でも最高裁で棄却されて2015年9月30日には投票用紙は焼却されてしまったので、もはやその結果は永遠に知ることは出来ず、今更どうなるものでもないのですが、ボイコットを誘発すると言われる住民投票における成立要件が、どの程度のものなのかという視点で、興味深く読ませて頂きました。

成立要件というものが、本当に住民投票のふさわしいのか?これは、大いに疑問です。全国各地で市町村で条例による住民投票が頻繁に行われるようになりました。2015年以降に行われた住民投票の事例ですと、幸い投票率による成立要件は設けられてていません。最近、憲法改正がニュースになっていますが、憲法改正の際には、国民投票にかけられますが、2010年に施行された国民投票法にも、成立要件はありません。

小平3・2・8号線計画についての住民投票に小平市が後出しで付けた成立要件について、小林正則市長は、「住民投票の結果を、市民の総意、市を代表した意見として取り扱うために信頼性・実効性を与えるため」という趣旨の説明をしています。50%以上の有権者が投票に行けば、確かに関心が高いということで、重みがあると言えるとは思えます。しかし、住民投票で問う内容について反対の意見の人にとっては、投票率を下げ成立させないことが最良の選択肢となるため、投票ボイコットという選択を選んでしまうという問題がおきます。以下、福地さんの論文を解説しながら、成立要件の影響を考えて行きたいと思います。

福地さんの論文では、インターネット調査会社の1855人の登録した小平市民のモニターうち、309人が回答しています。投票が行われた2013年5月現在の小平市の有権者からは272人の回答を得ております。272人の年齢構成は、30代と40代で合計52.58%と実際の有権者構成より多く、60代と70代以上は17.3%と実際の有権者構成より少ない。272人のうち投票に行った人は118。住民投票があることを知らなかったので行かなかった人が54、知っていて棄権した人が、100という結果になっています。272のうち118が投票したので、投票率は43.38%となっており、実際の投票率である35.17%より、8ポイントほど高いです。これは、サンプルサイズが272と十分ではないことによるバラツキ(P4によると、最大誤差±5.7%)であるが、回答者が現実の投票でも投票率が高い3~40代が多かったことから、投票率は高い方にふれていると思われます。

投票者の118人のうち76(64.4%)が住民参加による見直しに投票しています(P6)。性別による回答の傾向は「住民参加で見直す」を選んだ人は男37人女39人と大差はないものの、「見直す必要はない」を選んだ人は、女10人に対して、男32人と3倍も男性が多く、年代別の回答の特徴として、20代、30代、50代、60代は、60%以上が住民参加による見直しを選択したのに対して、40台は、50数%だけが住民参加による見直しを選んでいます(P6)。男女比別、年代別から、40代の男性が、もっとも見直しに消極的という傾向があることが読み取れます。40代後半の1人の男性としての自分の意見ですが、道路計画の南北の状況や、事業認可に向けた手続きが直前まで進んだタイミングでの変更がいかに難しいということを知っての選択の傾向のように思えます。いろいろな社会の仕組みの矛盾や理不尽さを知りながら、仕事に責任をもって感情を抑えて働いている自分を含めた40代男性ならでは傾向であると感じました。これは私の私見です。

住民投票があることを知っていて投票にいかなかった人の100人(35.6%)の投票に行かなかった理由の調査結果は興味深いです。「①計画を見直す必要がないから」28「②投票しても不成立になる(投票率が50%に満たない)と思ったから」34、「③自分とは直接関係がないから」が23、「④その他」が22。回答は107(P7)。回答者は100なので、重複が7ありますが、①を選択した人は、見直しは必要ないを選択するための「投票ボイコット」の選択が28(28%)、②を選択した人は、どうせ投票に行っても不成立となるからという「あきらめ」や「しらけ」の理由が34(34%)、併せて、59(59%)(①と②の重複が3人いるため①と②の和より3少ない)が、成立要件の影響で、投票に行かないという選択をしてしたということを意味しています。

仮に50%成立要件がなければ、これらの59人のうち投票に行った人は多くいたでしょう。59人は、272人はアンケート回答者の21%にあたります。投票率を十分に引き下げる効果はあったと言えます。実際の住民投票の投票率は35.17%でしたので、仮に+21%アップなら、56%となります。そこまで大きく投票率に影響することはないにしても、住民投票の直前の2013年4月に行われた市長選挙(投票率 37.28%)や、直後の6月に行われた都議選挙(投票率 37.27%)の投票率は、軽く越えていたとは言えるのではないでしょうか。

なお、福地さんの論文では、アンケート回答者272人を、住民投票当日の有権者145,024人全体に割り当てて、①と②の理由で投票にいかなかった人の比率から、50%成立要件がなかった場合はどうなったかについて一定の仮定をもとに、投票率と得票率を試算しています。 詳しくは15ページから16ページをご覧下さい。アンケート結果の概要は以下の図にまとめました。

福地さんの調査結果概要

福地さんの論文 インターネットアンケート調査結果の概要

福地さんの論文から、住民投票に投票率による成立要件をつけると、住民投票で問う内容について反対の意見を選択したい人にはボイコットを選択させ、さらに不成立になるという「あきらめ」や「しらけ」から投票に行かない人を増やし、投票率を下げるということが明らかになりました。そもそも日本では、条例による住民投票結果には、拘束力はないとされています。住民投票を実施した結果の中身を見て、首長がその結果をどう扱うか、判断すれば良いのです。

小林正則市長が言うように、住民投票結果を、「市民の総意、市を代表した意見として取り扱うために信頼性・実効性を与えるたいので、基準を設けたい」という場合はどうすれば良いかというと得票率を成立要件や尊重要件に設定するという考えがあります。二つの選択肢の中で、どちらか多い方が、投票資格者全体の何%を締めているかという得票率を基準にするという考え方です。当然、投票結果の開票が前提になります。

福地さんの論文によれば、住民投票の先進国のドイツでも1955年は50%成立要件による住民投票が行われ、その後20年間制度は維持されたが、多数の投票ボイコットが住民投票制度を形骸化したため、1975年に、「全有権者の30%の絶対得票率」に変更されたことが書かれています。現在では、州によって様々な得票率による基準が定められているようです。詳しくは、P17をご覧下さい。

なお、日本でも住民投票に、得票率による尊重要件を設けた例として、2015年の2月に行われた所沢市の小中学校の除湿(冷房)工事についての賛否についての住民投票の例があります。詳しくはコダイラー通信 市議選特集号の4ページ目に「小平以降の住民投票は?」としてまとめていますので、よろしければご覧下さい。

最後に、このようなアンケート調査を実施頂き、論文にして公表してくださった卯月盛夫先生と福地健治さんに深く感謝したいと思います。そして、この論文が多くの人の目にとまり、これからも全国の市町村で実施されるだろう条例による住民投票に、投票率による成立要件が二度とつけられないことを強く望みます。

(文責 神尾直志)

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