小平市では、現在、小平市都市計画マスタープランの改定を進めており、現在、中間まとめが公表されており、4月25日まで意見募集している。
前回のその2では、小川駅西口再開発の高度利用の方針の進め方について、情報公開が十分でないまますすめられて、都市計画マスタープランの見直しの中でも“高度化”について議論されていないことについての課題をまとめた。その3は、都市計画マスタープランの検討の中の都市計画道路について、守るべき環境が衝突している場合の市町村の対応について、小平市と近隣市の態度を比較することで、小平市の都市計画マスタープランに不足している点を確認し、見直し検討委員会、小平市議会都市計画マスタープラン全体構想特別委員会の審議が、無作為抽出アンケートに基づいたものになっているかについて考察する。
未整備の都市計画道路と計画の見直し
都市計画道路マスタープランを見ると、未整備の都市計画道路がいかに多いかがわかる。小平市ではこの図が市のホームページにあり、中間まとめにもP48に交通ネットワーク方針図がある。小平市の都市計画道路はすべて、1962年、1963年に計画決定された。この古い道路計画に忠実に整備を進めようとしているのが今の小平市のまちづくりであるが、それはそのまま東京都のまちづくりで、各地で環境問題など軋轢を引き起こしている。
東京都と26市2町は、未整備の都市計画道路について、10年に一度見直ししている。正確には、10年に一度の優先整備路線を選択する過程の中で、必要性が確認されなかった路線を見直し路線としている。また、必要性が確認されたものの特別な事由により検討が必要な路線を、計画検討路線としている。これらは2016年3月に「東京における都市計画道路の整備方針(第四次事業化計画)」として公開している。計画決定路線1,394本、3,207kmのうち、H25年度末での整備率は、完成路線1,997km、62%で、第四次事業化計画で見直しされた路線が9本、計画検討路28本が選ばれたが、見直ししたというには数は少ない。なお小平市では、見直し路線も、計画検討路線も1本もなかった。
東京都における都市計画道路の整備方針(第四次事業化計画)は法的に位置づけられていない。都市計画道路は、都市計画法の第11条の都市施設にあたる。この都市施設の計画を定める主体者は、第15条に記載があるが、都道府県または市町村となる。「一の市町村の区域を超える広域の見地から決定すべき地域地区として政令で定めるもの又は一の市町村の区域を超える広域の見地から決定すべき都市施設若しくは根幹的都市施設として政令で定めるものに関する都市計画」と記載されており、広域にまたがるもの、根幹的な都市計画道路は都道府県が決定し、それ以外は市町村が決定することになっている。東京都が、10年に一度、区市町を一斉に集めて優先整備路線を決めるという進め方になっているが、それは東京都だけが独自に行っていることであり、法的な枠組みに位置づけられたものではない。
都市計画道路の見直しが始まっている他県と東京都
他県では、都市計画道路の見直しが始まっている。国交省の第8版 都市計画運用指針(H28.4)のP9には、「長期にわたり事業に着手されていない都市施設又は市街地開発事業に関する都市計画については、見直しのガイドラインを定めるとともに、これに基づき、都市の将来像を踏まえ、都市全体あるいは影響する都市圏全体としての施設の配置や規模等の検討を行うことにより、その必要性の検証を行うことが望ましく、都市計画決定当時の計画決定の必要性を判断した状況が大きく変化した場合等においては、変更の理由を明確にした上で見直しを行うことが望ましい」と、都市計画の見直しを推奨している。
埼玉県・神奈川県・千葉県など近郊の都市では、都市計画道路見直しガイドラインをつくって、市町村主体で見直しを促している。政令都市である川崎市、さいたま市、千葉市なども積極的に都市計画道路の見直しを行っている。都内でも新しい道路計画の見直しの取り組みが始まっている。調布市では、まちの骨格となる都市計画道路と地区内交通を担う生活道路を一体的に計画し整備を進めるため、平成26年度と平成27年度の2か年で「調布市道路網計画」を策定公開した。東京都の第四次事業化計画と独立して進めている。第四次事業化計画の第2章P49から、調布市内には5つの計画検討路線があり、調布市から東京都に申し入れしたことがわかる。
東京都だけ何故、頑なに都市計画道路の見直しをしないのか、2016年1月17日に東京都都市整備局主催の「東京における都市計画道路の整備方針(第四次事業化計画)のオープンハウス」という展示イベントに参加して質問してみた。都市基盤街路計画課課長補佐は、「東京は他県とは違う。さらなる成長、発展を続けるために都市計画道路のさらなる整備は必要」という説明だった。「東京における都市計画道路の整備方針(第四次事業化計画)」の第1章11ページによれば、毎年都施行の都市計画道路に約3,000億円、東京の全区市町の施行の都市計画道路に約400億円の予算が使われている。巨大な公共事業には、生業としている関係者も多く、容易には縮小できないのだろう。都市計画法上に、一度計画決定された都市計画が一定期間で事業化に至らなかった場合に、計画が消えるという仕組みがない。国会議員、知事や都議など政治家が動かない限り、当面はとにかく50年以上前の古い計画通りに、都市計画道路をつくりつづけることになりそうだ。
小平市の近隣市での取り組み
東京都の都市計画道路推進のリーダシップに対して、都市計画道路と守るべき環境が衝突している場合の、小平近隣市の取り組みを各市の都市計画マスタープランから見ていく。
小金井市の都市計画マスタープラン(H24)の場合は、全体構想のP35で、野川公園、武蔵野公園の北側にある国分寺崖線(はけ)を通過する都市計画道路3・4・1について、変更の可能性の検討と課題としてあげている。東京都の第四次事業化計画で都市計画道路3・4・1は優先整備路線に選ばれている。なお、小金井市のH28年3月28日の本会議で「はけの保存のために、小金井3・4・1号線および小金井3・4・11号線外の優先整備計画の見直し・変更を求める陳情書」が、賛成多数で可決されており、今後の動向が注目される。小金井3・4・1号線、3・4・11号線ともに都施行である。

東久留米市の都市計画マスタープラン(h24)では地域別構想のP116では、「本市の財産である南沢遊水地を横切る形で計画されている都市計画道路東3・4・12と、同様に竹林公園を横切る同東3・4・18の整備にあたっては、その環境を守ることのできる整備のあり方が明らかになるまで当該箇所(道路ネットワークの方針図:自然環境を守ることを前提とした区間)の整備を留保し、明らかになった時点において、それにあわせて整備を進めます」という記載をしている。曖昧ではあるが、整備を留保するという強い言葉で環境を守る姿勢を示している。東京都の第四次事業化計画では、該当する区間は優先整備路線に選ばれなかった。なお東3・4・12は市施行、東3・4・18は都施行である。

国分寺市の都市計画マスタープラン(H28.2)では、史跡武蔵国分寺跡の歴史文化資源や崖線の緑が集積するエリアと、都市計画道路の国分寺3・4・1がぶつかっているが、P43には、「廃止も含めたあり方を検討する必要があります」と、明記されている。東京都の第四次事業化計画では、該当する区間は計画検討路線としてあげられており、やはり、「廃止も見据えて検討する」(P91)と記載されている。国分寺から東京都への働きかけを行ったのだろう。

国立市の都市計画マスタープラン(H25)では、具体的にどの都市計画道路と環境の問題のことかは不明であるが、整備のあり方や環境上の配慮などの観点から、計画の見直しの検討が課題であることはあげている。

なぜ、小平市は都市計画マスタープランで課題にふれないのか
小平市はどうであろうか。東京都の第四次事業化計画で優先整備路線に選ばれた小平3・3・3号線の西東京市境から新小金井街道までの区間には、小平市が地域資源として認識しており、水と緑のネットワークとしてあげている小平グリーンロードの一部である多摩湖自転車道と斜めに交差するので、グリーンロードが少なくても200m以上、寸断されることがわかっている。小平市の都市計画マスタープランの中間まとめのP44の記載は、「沿道の土地利用について検討」とだけ記載されているだけ。課題があることにはふれず、都市計画マスタープランの中では目をつぶっている。何故、課題としては認識を都市計画マスタープランに示さないのか? 交差部分を減らすような設計変更を東京都に求めないのか、他市のマスタープランのように、課題としてあげて、最低限、「グリーンロードとの交差部分について整備のあり方を検討する」などと記載をすべきだ。

写真は多摩湖自転車道(グリーンロード)に小平3・3・3号線は、手前(東)から奥(西)に斜めに交差する部分
小平市は、H28年1月28日に行われた小平市都市計画マスタープラン全体構想特別委員会で、都市計画部長が小平3・3・3号線に対して以下の説明をしている。
“その中で小平3・3・3号線(新五日市街道)は、多摩地域の東西交通円滑化に資する骨格幹線道路の一つであるためということでうたってございますから、これは東京都が施行主体となっていきますので、市としてはその整備を見守っていくことになります。
小平市はどういう立場でいるかというと、道路をつくるのはもちろん東京都でございます。これは地域をまたぐ大きな幹線道路ですから、市が必要性云々を言う立場には多分ないのだと思いますが、道路ができたときの周辺の町をどうするか、それはまさに小平市の問題でございますので、地域をどうつくっていくか、具体でいいますと、今、商店街をちょうどまたぐような部分がございます。そこがなくなったときに、周辺の商店をどのように再整備するのか、しないのか。実際には住宅が張りついていますから、急に住宅を除いて商店を建てるのは難しい面もありますが、そこは地域に入っていって、いろんな声を聞いて、まちづくりをしっかり進めていきたいと考えてございます。”
この姿勢は、多摩の近隣他市の取り組みと比較すると、手抜きと言われても仕方ないだろう。守るべき小平市の環境や、影響を受ける小平市民から目を背けている。しかし、都市計画部長が、小平市の最長の商店街で800m以上が東西に続く鈴天通り商店街と、光が丘商店街についても約8割が、予定地にあたることを認識して、再整備について言及しているので望みがある。まちづくりカフェの第7回の街歩きでは予定地は歩いていない。参加者を刺激したくなかったのだろう。しかしその態度は間違っている。商店街が消失してしまうことについて、委員会の中で市議に説明したように、都市計画マスタープランの中で共有すべきだ。歩いて回れる貴重な商店街。小平3・3・3号線の整備が進んだ後は、全く違う姿に変わるのだ。整備後のまちづくりのあり方について、都市計画マスタープランで住民の意見を聞いて、どう整備していくのかの方針について地域別構想に記載すべきだ。

写真右側(北側)が予定地。鈴天通りと光が丘商店街併せて800m程度続く、個人商店街の通り。
見直し検討委員会の議論から、道路整備率について
さて、見直し検討委員会での都市計画道路の議論を見る。見直し検討委員会の第5回の会議要録で議論があった。P13から委員Dの意見を抜粋する。
“都市計画道路の整備状況に関して「多摩地域の都市計画道路の整備は 60%程度進んでいますが、本市の都市計画道路の整備は40%弱にとどまり、 道路整備の必要性は依然として高い」というロジックには違和感がありま す。計画が立っているから、周りのエリアに追いつかなければならないと言っているのか、市民の要望が高いという事実があるのか、その点がよく分か りません。 これまでの話からすると、市民から「交通渋滞が酷いから道路を整備して ほしい」という要望はあまり聞こえていないような印象があります。上の「小平市の望ましいまちの姿について」というグラフでは「道路や公共交通 が整備され」という評価があり、加えて「歩行者や自転車の交通にもやさし い」という評価は私も同意するところです。つまり、そこではなくて、40% の達成率だからさらに達成率を上げるという考え方には違和感があります。”
50年前の計画決定に対する整備率が低いから整備が必要といういうロジックを否定しており、官僚的な発想に釘を刺している。松本委員長の御意見は、以下の通り。
“希望的に言うと、周辺の方々を含めて、どのようなつくり方をするのか等 をきちんと詰めた上で計画をつくっていくような、「市民に喜ばれるものとして整備する」という意思が計画に反映されなければならないと思います。 この文章は、東京都が決めたからつくるという前提で、40%の達成率では少ないので60%まで努力するというようにも受け取れるので、そうではなくて、「これからは周辺環境も含めて良いものにしていくという趣旨で、ネッ トワークも良くなるし、市民にとっても良いものになる」という観点から取り組んでいく、そういう整備における市民協働の環境整備を目指すと書かれ た方が良いと思います。”
ところが、公開された中間まとめのP18には、他市と比べて整備率が低いから整備することに拘っていることがわかる。どうしてもこれを書かないと気が済まないのだろうか、もう少し見直し検討委員会の意見を受け容れるべきだ。
“幹線道路の整備は、渋滞の解消だけでなく、歩道、自転車道、沿道の植樹による緑の確保、 延焼遮断帯としての防災性の向上、沿道を活用したにぎわいを醸成するなど、多くの効果をもたらします。本市の都市計画道路の整備率は40%弱にとどまり、多摩地域の都市計画道路の整備率が 60%程度まで進んでいることからも、歩車道が分離されている道路ネットワークの拡充は、まちづくりにとって重要なものとなっています。”
下図は、「東京における都市計画道路の整備方針(第四次事業化計画)」の第1章P10に記載がある。国分寺は22%、東村山は19%、東大和市は67%、国立は39%、小金井は45%、東久留米が57%。小平市は他市と比べて特別に道路事情は悪いだろうか。では、22%の国分寺は、市民は道路が悪く住みづらい、移動しづらくてどうしようもないのだろうか? 小平市より大きく劣るのだろうか? 50年以上前の計画に対する整備率にこだわるのはナンセンスだ。

都市計画道路の整備率について取り上げてみたが、学識経験者や市民からなる見直し検討委員会と行政の間にも大きな溝があることがわかる。しかし、見直し検討委員会の皆様にはぜひとも粘り強く、小平市に働きかけて頂きたい。
無作為アンケートの自由記述意見から既存道路整備の課題を考える
最後に、都市計画マスタープランを見直しするに当たっての、無作為抽出アンケート自由記述について分析する。自由記述255件の意見のうち58件が道路に関する意見であったが、そのうち「道路」そのものに関わる部分だけを抜粋した54件が何を課題としているか、以下のように分類した。54件と異なる意見はさらに細分化して1項目としている。また1項目が複数に該当することもあるので、総数は合わないが、どのように分類したかは、詳しくは無作為抽出アンケート結果の自由記述、道路部分について抜粋を見て頂きたい。無作為抽出という方法は、無作為であるが故に、市民参加したい一部の強い市民の意見に偏らないというメリットがあり、その意味で市民の普遍的な意見を表していると言えるので、改めて取り上げてみた。
- 都市計画道路の新設に肯定的 8件
- 青梅街道・五日市街道などの既存幹線道路、たかの街道などの生活道路の整備 22件
- 歩道、自転車道の改善 26件
- 幹線道路と西武線踏切を高架やアンダーパスなどで撤去 4件
- 3・2・8号線に否定的で、雑木林を守ってもらいたい 9件
- その他 8件
既存の幹線道路、生活道路とその歩道・自転車道に課題があることがわかる。この結果は、その1でも述べた無作為抽出アンケート結果の「市全体のまちづくりの満足度と重要度」の結果とも近い。既存の道路に十分な幅員がないことが根本にある。小平市が主催したH28年4月7日(木)午後1時から東部市民センサーで行われたまちづくりサロンに参加して、小平市の担当者の話を聞いた。「既存の道路や歩道、自転車道の整備には、労力もお金もかかる。(強制力のある)都市計画道路を整備する方がすすめやすい」という説明をしていた。
確かに都市計画道路は事業化すれば、任意による用地買収を行い、最終的には土地収用法が適用でき、整備を確実に進めることが出来る。しかし、自分が生活で移動するルートでない場所に都市計画道路が出来ても、歩行・自転車の場合は、遠回りになって解にならない場合もある。
既存の道路の整備は、何が難しいのか、例えば、府中街道のたかの街道から青梅街道までの間は、1994年ごろ民家や農家にセットバックの協力をしてもらい、拡幅、歩道整備がされた。東京都がどうやって行ったのかは不明であるが、やればできるのだ。小平市民等提案型まちづくり条例や地区計画で、自宅を建て替えるときに、1m~2m、セットバックしてもらうようなルールをつくることは考えられないだろうか。さらに小平市がセットバックに協力いただける沿道の住民から土地を高く購入する条例のようなものでサポートすれば、協力してくれる住民もいるのではないだろうか? 土地を供出してくれた住民には、小平市が表彰したり、モニュメントに名前を刻むとか、実現出来ないのだろうか? そんなにゆっくりやったら、いつまでもたっても完成しないと言われるかもしれないが、都市計画道路も計画決定から53年経過して、整備率40%と進んでいないことを考えれば、既存道路の整備も同じ事だ。
小平市には、硬直化した考え方でまちづくりを進めるのではなく、多摩地区の近隣他市のやり方も参考にしながら、まちづくりの中で発生している都市計画道路と自然環境や商店街が衝突しているという課題について、都市計画マスタープラン見直しの中で、市民と情報を共有し、解決方法を一緒に見つけるため協力を求め、少しでも自然環境、農地、住環境、商店街などをつぶさないまちづくりを目指してもらいたい。
(文責 神尾 直志)