どんぐりと民主主義(9)

どんぐりと民主主義—都道3・2・8号線問題から考える(9)

味方を作ること

國分:先程の松戸の話は「関さんの森」でしたっけ?

中沢:関さん姉妹が道路計画から本気になって守った森ですね。あれはマスコミが協力したこともあるし、環境庁も結構協力する関係になっていたんですね。

お役人はみんなダメとか協力してくれないとかいう考え方は、しないほうがいいですね。

國分:それはおっしゃる通りだと思いますね。

中沢:味方をつくるっていうことは大事なんですね。ことに環境庁なんかは、われわれと共感能力が高いので、あの人たちを利用しない手はない。お友だちになっていくということがとても大事になりますね。政治家とお友だちになっていくっていうことも必要なんです。自民党の代議士とも、なかよくしていく必要がある。そういうものと敵対しちゃうとかつての左翼運動みたいになって失敗しちゃうんですよ。

さっき言ったように「非敵対的矛盾」っていうのがあり得るのに、それをことさら敵対関係にしちゃうっていうのが左翼運動のすごくまずい伝統でね。すぐ自分と違うものを敵と考えてしまうんです。敵じゃない。ただ矛盾しているだけなんです。矛盾しているものをどう調停していくか、弁証法化していくかということが、民主主義というものの一番のエッセンスで、これをすぐ敵対関係にしちゃうとダメになる。

國分:今、中沢さんがおっしゃった、敵対するのではなくて味方にするっていう考え方、僕は本当に大切だと思うんです。僕は、学生の時に左翼運動をやっていたわけじゃないんですけれど、何度か講演会のようなイベントをやったことがあるんです。京大から先生を呼んだりとかして、みんなに関心を高めてもらいたいと思ってやってた。

ところが、それまで学内で敵対的な左翼運動をやって来た人たちにはすごく疎まれて、嫌がられた。「お前はイベント左翼で、俺たちが作った土壌を全部持っていく」みたいなことを言われて、僕は一度切れて、さんざん怒鳴りつけたことがあって、相手を泣かせちゃった。だめなんですよ。そうやって敵対ばかりしていたら。

さっき提案ということを言いましたけど、むしろ、こっちとしては「教えてあげるから」という気持ちで、大らかな気持ちで仲間にして、味方にしていくという発想がないと問題解決に向けて話が進まないんですね。

この328号線を巡る運動について僕はいろいろお伺いして、本当に立派にやってこられていると思います。僕が本当にいいなあと思ったのは、「森のよさを知ってもらおう」という積極的なビジョンをもってやってらっしゃるところです。どんぐりの会が中心になって、森でみんなで遊ぶ会をやったり、幻燈会をやったりされていて、本当にすばらしいなと思いました。

四国の伊方原発っていうのがありますけれども、あの設置認可を巡る裁判で原告側の、つまり、住民側の証言をやった槌田劭(つちだたかし)さんという、元京大の科学者の方がいらっしゃいます。

伊方原発訴訟というのは、裁判中はほとんど原告の住民の有利に進んでいた。原子力の専門家が、槌田さんという、まだぺーぺーの若い科学者にやりこめられたりして、弁護士が「こんなにおもしろい裁判はない」と言っていたそうなんです。非常に盛り上がって、もしかしたら国が相手だけど勝てるかもしれないという雰囲気すらあったらしい。ところが、国は何をしたと思いますか? 人事権を使って証言調べやら現地調査やらをした裁判官を異動させちゃったんです。国家というのは、裁判で不利だと思ったら平気でそういうことをするのです。

結局、裁判は原告側の住民の敗訴に終わります。これはすごくドラマチックな話ですが、槌田さんは、その後、四国から京都に帰る夜の船の中で眠れず、甲板に出て黒い海を眺めていた。そして「科学者をやめよう」と決意され、本当に京大の教員を辞められた。

その槌田さんがおっしゃっていることで、すごく心に残った言葉があります。「運動っていうのは、否定的なものに基づいたら絶対続かない」ということなんです。憎しみや不安に基づく運動は、ばっと燃え上がるけれども決して続かない。だから、絶対に、なにか肯定的なものを持たねばならない、と。僕はこの槌田さんの言葉に強く心を打たれました。

この328号線の計画もね、最初聞くと腹が立つわけです。僕も説明会の時に本当に腹が立ちましたよ。でも、やっぱり腹を立てているだけじゃだめだと思ったんです。

この森がすばらしいという気持ち、もっと広く自然を大事にするとかでもいいんですけれども、なにか肯定的なものを持って運動を続けていかないと、絶対続かないし、広がっていかないなと思います。

國分氏2

今日は、始まる前に、中沢さんと鷹の台に3時に集まって、散歩してきました。中沢さんには、あのあたりを大変気に入っていただいて、更に一橋学園の近くでは、おまんじゅうも気に入っていただいたんですが(笑)、あのキレイな落ち着いた何気ない風景を見たら、これは残したいという気持ちになっていくと思うんですよね。みなさんの中にも道路建設予定地にお越しになったことがない方がいらしたら、ぜひ鷹の台から降りて、あの辺り、玉川上水の遊歩道を散歩していただければと思います。とってもいい気持ちになります。ぜひおすすめしたい。

(写真・加藤嘉六)