7/16小平住民投票5周年シンポジウム

2018シンポジウムチラシ

今年は小平市の住民投票5周年。シンポジウムを開催します。

小平住民投票5周年シンポジウム「玉川上水の自然を守るには?」

日時:2018年7月16日(月祝)13:30-16:30
場所:小平市中央公民館ホール
資料代:200円、申込み不要

高槻成紀氏「玉川上水の動植物の価値について」
下平憲治氏「下北沢で道路をストップさせた方法〜楽しい運動のつくり方」
玉川上水や雑木林、道路をめぐる市民の活動報告
ワークショップ

小平都市計画3・2・8号線に関する住民投票は2013年5月26日に行われ、日本中から大きな注目を集めましたが、残念ながら開票されないままでした。しかし、その後も、玉川上水やその自然を大切にする活動や、地権者の運動など、市民の活動は続いています。

住民投票5周年を迎え、玉川上水の自然の魅力についてのお話と、下北沢で道路計画をストップさせたお話をお聞きします。その後、ワークショップで意見を出し合います。

5/29シンポジウム「住民投票のこれまでとこれから-小平住民投票市民アンケートからみえるもの」

小平市で道路計画をめぐって2013年5月に行われた住民投票は、結果が明らかにされないまま、昨年9月、市は投票用紙を焼却処分しました。早稲田大学社会科学部修士課程の福地健治氏は、誰も結果を知ることができなくなったその住民投票について、昨年夏に市民対象にアンケート調査をした結果を論文として公表しました。

その論文では、住民投票で投票した人の64.4%が、道路計画を「住民参加で見直すべき」に投票したこと、78.8%の人が「投票結果を開示すべき」と考えていたこと、などが明らかとなりました。この論文について福地さんにご報告いただき、その内容を踏まえ、住民投票のあるべき姿について、講師陣に討論していただきます。

日時:2016年5月29日(日)13:30~16:30
場所:津田公民館ホール(定員96名・先着順)
資料代:300円

報告:「小平住民投票市民アンケート結果について」 福地健治氏(早稲田大学社会科学研究科修士課程)

討論:卯月盛夫氏(早稲田大学社会科学総合学術院教授)、國分功一郎氏(高崎経済大学経済学部准教授)、武田真一郎氏(成蹊大学法科大学院教授)

主催:小平都市計画道路に住民の意思を反映させる会
問合せ:090-2439-7976(オガワ)
保育あり:1人300円。上記問合せ先へ要申込み。

チラシダウンロード(A4)

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2015/12/13シンポジウム&意見交換会「5万人の投票用紙は焼却された」報告(前半)

大変遅くなって申し訳ありません!

昨年12月13日(土)に開催したシンポジウム&意見交換会「5万人の投票用紙は焼却された」の報告(前半)をアップします。

 尾渡弁護士には、小平住民投票情報公開裁判をふりかえり、第一審、控訴審、上告審のそれぞれの主張の論点、判決の問題点について、わかりやすく解説していただきました。判決への所感として、この判決が、今後の住民投票で、自治体側が結果を見せたくない場合に、そういう規定を設けて公開や開票をしないで結果を闇に葬り去る道を開いてしまったのではないか、 また、せっかく住民投票等により自分たちのまちのことは自分たちで判断しようという住民自治が行われ、そういう動きが他の自治体にも波及している中で、こういう動きの発展に水を差す判断なのではないかと懸念を示されました。

 中島弁護士は、住民主権の発現の場、地域住民の主権行使の場としての住民投票の重要性に言及し、最高裁判決で住民投票の非公開が認められてしまった現状で、「まだできること」として、小平市自治基本条例の「市民投票制度」についての条文中に、市民投票が実施された場合は、「速やかに開票を行い、その内容を告示する」という文言を加えるように改正することを提案されました。

 また、小平以降に行われた北本市、つくば市、小牧市の住民投票では、いずれも成立要件は付けられずに開票された結果、多数を占めた住民の意思が政策に反映されたことを指摘し、小平市でも結果が公表されていれば大きな影響力をもったであろうし、住民投票に成立要件を設けることには非常に慎重にならなければいけない、と主張されました。

資料「最近の住民投票」(pdf)

 武田先生は、判決は住民投票の結果を法令秘情報としたが、住民投票の結果は秘密として保護に値しない、それでは「市民の声を聞きたくない」行政を保護するということになってしまう、と、裁判所が市民の知る権利でなく市の利益を擁護したことを批判されました。また、情報公開は原則開示の原則、つまり、行政情報は公開するのが原則であり、市側が公開できないと言うなら、非公開情報であることの立証責任は市の側にあるが、判決では行政に有利になるよう立証責任を軽減していると指摘されました。

  また、提案として、投票率によって住民投票の成立要件を決めることはおかしいと徹底的に批判すること、 住民投票の結果は焼却されたが、それでは市はこの計画に市民の意見をどうやって反映させるつもりなのかを問い続けていくことを挙げられました。また、住民の意見を政治や行政に反映させるには、個々の住民の熟慮と参加が不可欠であり、このシンポジウムのように集まって話し合う取り組みを続けることしかないと結ばれました。

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1/9小平市市民学習奨励学級「納得するまで話し合うドイツのまちづくり」報告

大変遅くなりましたが、1月9日(土)に開催した、小平市市民学習奨励学級「市民の思いが実現するまちづくりへ」第三回「納得するまで話し合うドイツのまちづくり」(卯月盛夫氏)の報告を下にアップしました。卯月先生の講演は、第一部日独の都市計画制度比較と第二部ドイツの住民投票の二部構成です。ドイツの市役所に勤務し、地区詳細計画を書かれた経験もお持ちで、都市計画と市民参加を考えるのに大変役立つ講演でした。

具体的な内容をお伝えしたくて、長めのまとめにしました。多くの方に報告をお読みいただけたらと思います。以下より、報告をダウンロードしてお読みいただくこともできます。

「納得するまで話し合うドイツのまちづくり」(卯月盛夫氏)報告(pdf)

また、卯月先生のご報告の後、早稲田大学社会科学部卯月研究室の大学院生福地健治さんが小平市の住民投票に関する意識調査についてご報告くださいました。この内容は論文「小平市における都道3・2・8号線の住民投票に関する研究―住民意識調査から『投票率50%の成立要件』の意味を考える―」にまとめられ、早稲田大学卯月研究室のHPで公開されましたので、ぜひお読みになってみてください。


 

小平市市民学習奨励学級「市民の思いが実現するまちづくりへ」
第三回「納得するまで話し合うドイツのまちづくり」

2016年2月9日
講師:卯月盛夫氏(早稲田大学教授)
出席者:29名

第一部 日独の都市計画制度比較

日独の都市計画は多くの視点で比較可能だが、私は建築出身で都市計画を専門にしており、景観や住民参加のまちづくりに一番興味を持っているので、

  1. 建築と都市計画の間に一体的な連続性があるか?
  2. 地区計画が法的に位置づけられているか?
  3. 市町村に、都市計画高権があるか?
  4. 市民参加が法的に保障されているか?

の4つの視点で比較検証したい。

1.建築と都市計画の間に一体的な連続性があるか?

本来は建築と都市計画には一体的な関係性がなければならないが、日本には確実なものがない。ドイツでは、計画法として、連邦レベルの国土計画、州レベルの地方計画、市町村レベルの都市計画があり、どのレベルでどういう計画を作るかが書かれている。一方、建築法には建ぺい率とか、風や地震に対してどうやって安全な建物をつくるかが書かれている。

ドイツの場合、よくできていると思うのは、計画法と建築法の両方が都市計画の記述をしていることだ。建設法典と訳される建築法の中に都市計画についてかなり書かれている。日本では、都市計画法と建築法がつながっておらず、すきまがある。日本の建築基準法には、純粋に建築のことしか書かれていない。集団規定というのもあるが都市計画の話ではない。

都市レベル(例:小平市)と建築レベルの話は日本でもあるが、ドイツではその間に地区レベルの地区詳細計画というものが法的に定められている。わかりやすく縮尺で考えると、建築では、住宅をつくるときに役所に出す平面図や立面図を1/200から1/100程度で書き、詳細は部屋の内装等を1/20程度で書く。また、役所で都市計画用途地域の図面を入手しようとすると、1/2,500の図面を出してくる。都市計画は一般的に1/2,500という縮尺に決まっている。

この1/2,500と1/250の間には大きな隔たりがある。私がドイツで学んだのは、1/1,000~1/500のスケールだ。これは、ナビや住宅地図のような縮尺で、地区レベルとはひらがなの「まち」という言葉に一番近い単位だ。かつて界隈と呼んだような、小平市という単位とは全然違う、地域の個性がある単位だ。

日本では地区レベルの計画が、法的に、絶対に作らなければいけない計画としては、「ない」(つくることはできるが)。ドイツの場合は、すべての市町村に土地利用計画(1/20,000~1/2,500の単位)、地区詳細計画(1/1,000~1/500の単位)が法律で定められ、それによって建築が許可される。この二つに合致しているかどうかで建築許可が行われる。

日本では建築許可ではなく、建築確認でしかない。日本とドイツを比較すると、定まっていることの詳細度が全く違う。日本では、建築と都市計画の間に一体的な計画性、連続性はないと言わざるを得ない。

2. 地区計画が法的に位置づけられているか?

ドイツをはじめとする都市計画先進国では、このように法的に二層の縛りがある。日本はあいまいだが、法的には一層制だと思う。ただ、地区計画をもっているまちもある。世田谷の太子堂や三軒茶屋のような木造が密集したところでは、道路を拡げたり、木造の建物に強度を課したり、燃えにくい建物にしたりと、きめ細かく将来のまちの計画をつくる必要があり、1/1000や1/500の、ドイツの地区詳細計画に近いものをつくった。あるいは、新しい開発をする場合に、用途地域を緩和したり、用途地域に加えて、建物の高さ、屋根の傾斜、壁面の位置や色彩、窓の開口部のパーセンテージなど、細かく定めるケースがある。また、城下町などの歴史的な町並みでは、用途地域を緩和して、放水銃を設ける条件で木造でも許可するなど、歴史的なまちなみを守るため、詳細な地区計画を作ることもある。

日本ではごく一部に地区計画が適用されているが、一般には少ない。また日本の地区計画はドイツの地区詳細計画ほど詳細ではない。1層制ではないが、1.2とか1.3層制、がんばって1.5層性というところだろう。日本の地区計画は、ドイツほど細かく規定していない。ドイツの地区詳細計画にあって、日本の地区計画にない規定の例としては、建ててよい建物の階数、体積率(容積率だけでなく天井の高さまで規制)、建築様式(一戸建て、二戸建て、集合住宅など)屋根の形などがある。

1970年代後半に私がドイツに留学していた当時、建設省がさかんにドイツに来て、日本に地区詳細計画を導入しようと検討していた。ドイツの市役所で地区詳細計画をつくる仕事をしていたので情報提供したが、なぜ日本に地区詳細計画は入らなかったか。当時の建設省の人は同じことを言っていた。日本の自治体の職員にはそのようなことをする時間も、能力もまだ無い、地区詳細計画に当時は2年くらいかかったが、そんなに時間をかけられない、日本の市民はまちなみや景観にそんなに関心がない。地区詳細計画はいいが、景観やまちなみにそこまで配慮する必要はないというのが当時の結論だった。もちろん、日本では土地の私権が強いので、建物の制限がしにくいという状況もある。

日本でも地区計画は法的に位置づけられているが、一般市街地ではほとんど運用されていない。ドイツでは、都市計画とは地区詳細計画のこと、というくらいで、この違いは大きい。

3. 市町村に、都市計画高権があるか?

都市計画高権(都市計画におけるもっとも高い権利)を誰が有しているか? ドイツでは、憲法にどんな小さな市町村でも都市計画の高権を市長が有すると書いてある(実際には自治体の議会が持っている)。日本では、明治時代には、国が都市計画の権限すべてを持っていた。その後、地方分権が進み、百数十年かけて自治体に権限が委譲されたが、完全には委譲されていない。今回の都道3・2・8の住民投票の問題も、都道だから市は(関与できないので市で)住民投票をやっても意味がないと回答していたのもわからなくもない。市民が選んだ市長や市議会がどれだけ都市計画の権限をもっているかが根本的な問題だ。多くの自治体では、3割自治や4割自治と言われるのが実状で、自分たちのまちのことを自分たちではなく、都議会、都知事、国土交通大臣が決めている。さらに、市町村の都市計画についても、市長や市町村議会ではなく都市計画審議会に決定権があることも市民から都市計画を遠ざけている。日本の市町村に都市計画高権はない。

4. 都市計画における市民参加 

一番重要だ。(1)法定計画における市民参加、(2)「都市内分権制度」に基づく市民参加、(3)まちづくりNPOを通じた市民参加、(4)住民の直接請求「住民投票」による市民参加という4つの視点でドイツと日本を比較したい。

(1)法定計画(土地利用計画、地区詳細計画)に市民参加の制度が法制度化されているか。

(2)都市内分権とは政治の仕組みであるが、市長や市議会が決定できる案件の一部を、地域、町会の連合会や、地区計画が定められている場合には地区計画を作ったり運用したりする団体に、建物、景観、緑のことをまかせてしまうことをいう。

(3)世の中が専門分化されていく中で、行政にもの申す市民団体やNPO団体、住民団体が、市民の意見を聞きながら行政に提案し、ロビー活動して法案を通させるような中間セクターとしての役割を果たすことが重要だ。一般市民の立場でロビー活動をする市民団体も増やしていかなくてはならない。常に新しく課題が出てくる中で、これらの3つの市民参加でも解決しない場合、最後の手段として、(4)直接請求・住民投票がある。

(1)法定計画における市民参加

1960年の連邦建設法では、市民参加の規定はほとんどなかったが、1971年都市建設促進法(再開発の法律)で、古い街並みを残しながら、ドイツの街を作っていく中で、古い町並みに住む市民の声を聞く必要があり、参加できる市民の範囲を拡げていった。日本の三軒茶屋、太子堂などに近い(ドイツの方が10年くらい早い)。

1976年には、連邦建設法の改正でF-Plan(土地利用計画)、B-Plan(地区詳細計画)に「早期の市民参加」という言葉が入った。ドイツの市民参加で注目すべきことは「早期の市民参加」だ。市民参加は二段階ある。大きな変更を前提にしない市民参加(説明会)なら日本でもやっているが、これに加えて「早期の市民参加」を入れた。

「早期の市民参加」を入れたのは、当時国土交通大臣であったフォーゲル氏(元ミュンヘン市長)だ。彼がミュンヘン市長の時、戦後の復興で、ミュンヘンの街中に高速道路網を計画したが、この計画は住民の反対運動でほとんどつぶされた。ミュンヘン大学の学生や一部の建築家の運動が、ミュンヘンに高速道路をつくると、これまでのミュンヘンの魅力が台無しになるという危機感を広めた。計画でこのようになるという予測図の展示会をいろんな場所で開き、高度経済成長をとるか、街並みをとるか、迫った。その結果、ごく一部はつくられたが、ほとんどの計画はつぶれた。その時の市長が、こういう計画は市民の合意形成のもとで作らなくてはならないと痛感し、計画をつくる前に、できるかぎり早期に市民の意見を聞かないと無駄になるとエッセイに書いている。最後は人間だ、と思う。

(1976年の連邦建設法には)複数案を提示するということも書かれている。ドイツの市民参加で一番重要なのは何かと聞かれたら、早期の市民参加と複数案の提示と答える。複数案という言葉は、日本の都市計画にはほとんどない。ほとんど変更出来ない1案を出すのは時代遅れだ。ドイツは、3案をつくり、一案にしぼりこむのは市民。あるいは市民と議員が一体になって、どれになってもおかしくない3案について様々な基準で議論して選ぶ。ドイツで複数案を提示した時には、お金(事業に掛かる費用)、環境、事業にかかる時間、の3つの基準があり、それぞれに重み付けした3案について専門家がコメントし、住民が大議論しながら合意形成する。どれでも目的が達成できる3案の中から、最後の決定をするのは市民あるいは議会だ。このあたりから、ドイツと日本のまちづくりへの市民参加に差がついていった。

(2)都市内分権制度による日常的市民参加 

ドイツ州市町村法では、人口10万人以上の都市になったら、5万から10万人の人口で分けて、市区委員会や地区協議会(州によって名称が異なる)を設置することになっている。こうした分権組織をつくることで、さまざまな分野の行政計画への市民参加、市民提案が可能になる政治のしくみだ。市区委員会や地区協議会に、市民が参加するための5つの権利を保障している。「告知権(告知を受ける権利)」「聴聞権(聴くことができる権利)」「質疑権(質問する権利)」、ここまでは普通。重要なのは、「提案権(個人ではなく、まちの単位で計画案をつくり、提案する権利)」、「決定権」。

市区委員会のメンバーは、市議選の際に一緒に投票で選ばれる。選挙で選ばれた、地域の代表性が保障された組織にしか、市から権限やお金は与えられない。月に一回開かれ、小さなことから大きなことまで地区で議論するしくみだ。行政が計画する地区に関係することについては聴聞告知をして市区委員会が意思表示する。区から提案する場合は、市民団体が運動して、市区委員会で議論してから、市に提案する。この場合、市は3ヶ月以内に回答しないといけない、という決まりになっている。

(3)まちづくりNPO

人口や行政組織が大きくなるほど、市民と行政の関係は遠ざかっていく。個人としての参加と団体としての参加の両方を考えなくてはならない時代になっている。個人としての参加はもちろん保障されなくてはならないが、任意団体やNPO法人等の活動を通じて、市民と行政がコミュニケーションをとることが必要。ドイツでは、「土地利用計画」「地区詳細計画」などを定める際、最終的に市議会で定める前に関係者のヒヤリングを行う。警察、消防、西武鉄道、大きな土地の所有者、企業、東ガス、東電といった関係者の話を聞く必要がある。その中に、地元の環境団体や自転車普及団体、道路計画を提案する団体、森林保護の団体など、会員が多く、あまり過激でなく、市民の意見を代表する団体が、事前協議をする団体と定められて入っている。ここに入るということはかなり公共性が高い、ロビー活動ができる団体と言える。ドイツの古い環境団体BUNDは全国組織で、会員30-40万人規模。

(4)住民の直接請求、住民投票による市民参加

州単位で規定される。バイエルン州の人口10万人以上の都市では全有権者の10%以上を住民投票で確保すると、その結果は1年間法的拘束力をもつ。行政が決定した計画も1年間実施出来ない。住民投票の結果は市議会の決定と同等の力をもつとされている。

日本では法律によって市民参加は保障されていない(編集者注:日本では条例に基づく住民投票の結果は法的拘束力がないとされている)。ただし、一部の市町村では「まちづくり条例」等によって制度化されている。日本では都市計画法、建築基準法を大幅に変えずに、まちづくり条例をつくってしまった(法律では定められていないことが条例で定められるのは本来はおかしい)。日本では市町村によってドイツより市民参加がすすんでいるまちもあるが、市町村によって格差が大きい。ドイツは法律で制度化されているので平均的にどの州でも市民参加がすすんでいる。


第二部 ドイツの住民投票 - ミュンヘンの高層建築をめぐって -

ヨーロッパでは、1970-80年、高層建築の建設ブームがあったが、社会的問題があり、高層住宅はほとんど建設されなくなった(一部の公営住宅だけが建設された)。EUに統合され、この20年ほどは、都市間競争が国の境界を越えて激化し、企業本社誘致の競争がすすんだが、高層建築となると、場所・景観・機能などいろいろ問題を抱えており、大都市では高層建築指針がつくられた。

ミュンヘンの高層建築指針

町中に環状道路が2本通っており、中心の旧市街地、中央環状道路(外側の環状道路)の内側(二本の環状道路に囲まれたドーナツ型の部分)と、中央環状道路の外側と3つのエリアに分けられた。旧市街地内部および旧市街地から見える重要な景観を妨げる恐れのあるところには、高層建築は許可しない、というきまりがある。また、環状道路の外側でも、放射状の道路と環状道路の交差部にだけ高層建築が許された。

ちょっと中世ヨーロッパの街を思い出すと、3-400m四方の小さな市街地のまわりに城壁があり、城壁の4、5ヶ所に城門があって、城門からだけ出入りできた。城門のところにだけ高い建物が許され、遠くから見たときに門だとわかるようになっていた。それ以上の高さを許されたのは旧市街地にある教会だけだった。そのことを踏まえ、外側の環状道路をかつての城壁と見立てて、インターチェンジの部分にかつての城門のように高層建築を許すというアイディアだった。外から見ると高層建築がランドマークにもなる。いいアイディアだと思ったが、なかなかうまくいかない。

旧市街地から4km離れた中央環状道路沿い(高層建築を建ててもいい場所)に高さ113mと126mの2棟のビルが建設され、これが旧市街地のオデオン広場から見えてしまった。市が言っていることと違うではないか?という不満と、デザインの評判の悪さもあり、ミュンヘンの景観が崩れるという危機感が住民の中で広まり、住民投票のひきがねとなった。

ミュンヘンの住民投票制度

ミュンヘンの住民投票制度は、全有権者の3%以上の署名で実施できる。投票はYes、Noのみ。投票者の過半数以上で、全有権者の10%以上を獲得した場合のみ、住民投票の結果は有効とされる。結果は市議会議決と同様の位置づけとなり、1年間法的な拘束力を有する。つまり、住民と共にその計画をもう一度1年間かけて議論し直しましょうという効果を狙った住民投票制度だ。ハードルを低くしている分、住民投票結果の拘束力もゆるい。

この住民投票で問われた内容は三つあり、148mと145mの2棟の高層建築を阻止しよう、町中にある教会の高さ100mを超える建物はミュンヘン市内全体で禁止しようという提案だった。住民投票の対象となったのは、南ドイツ新聞の本社とシーメンス本社の建設計画だった。 

このとき、市議会は猛烈に反発した。歴史的なものを活かしながらも、企業を誘致して質の高い雇用を確保すべきだ、という意見だった。ミュンヒナーフォールムというNPOが中心になった建設反対運動であったが、前の市長が後ろにいるという政治的な問題もあった。 

投票率は21.9%と低かったが、建設規制賛成への投票はぎりぎり過半数を超え、全有権者に対する得票率11%を確保し、有効になった(※規定は得票率10%)。市議会を構成する4党は、有権者の1割の意見で高層建築方針を変えることに反対し、経済界も反発した。ところが、市長は、10万人以上の市民が市の方針に異を唱えたことを率直に認め、シーメンスおよび南ドイツ新聞とすぐに協議を始め、協議の結果は5年間拘束力をもつだろうと発言した。

南ドイツ新聞は2ヶ月後、145mの建物を99.7mに変更した。シーメンス本社は、全面的に計画を見直し、高層建築をつくるのをやめた。郊外ではなく、再開発対象の市街地に中層建物を建築する方針に変更し、これは旧市街地の活性化にもなり、雇用がうまれるとして、市からも市議会からも歓迎された。

その後、ミュンヘン市は以前からの高層建築方針を一切変更していない。しかし、(※ミュンヘンの住民投票の結果は1年間しか有効ではないので、100m以上の建築は今では許されるが、)この11年間、100mを超える高層建築の申請は一件もない。市の都市計画幹部は、元市長が生きている間は無理だろうと言っている。法的には1年しか有効ではないが、住民投票は社会的には大きな影響を与えた。しかし、今後どうなるかはわからない。

ドイツの住民投票に関する制度概要

投票率で有効性を定めている州はない。重要なのは得票率で、7州が20%、7州が25%と定め、その他の州では8%が1州、30%が1州ある。さらに、同じ州でも市町村の人口規模で有効得票率を変えている州がある(バイエルン州、チューリンゲン州)。ミュンヘンのあるバイエルン州では、人口5万人までの市の有効得票率は20%、10万人までが15%、10万人以上は10%と定めている(※ミュンヘンは130万人なので、有効得票率は10%)。人口の多いところでは相当数の署名を集めなくてはならず、条件が厳しいので、有効得票率を下げている。

スイスの住民投票を研究している人の話では、ヨーロッパでもどんどん投票率は下がり、若者の無関心層が増えている。その中で市民の意見を反映させるために、住民投票の得票率を下げていく傾向があるということだった。

シンポジウム&意見交換会「5万人の投票用紙は焼却された」にご参加ありがとうございました

12月13日(日)開催のシンポジウム&意見交換会「5万人の投票用紙は焼却された—住民投票の開示を求めた裁判をめぐって」に、悪天候の中、ご参加くださったみなさま、ありがとうございました。

3人の登壇者の方の熱いメッセージと意見交換の場で出た率直な感想や活気ある提案やご意見をまとめ、次の活動につなげていきたいと思います。

本日東京新聞の朝刊多摩版にこのシンポジウムの記事が掲載されました。Webでもお読みいただけます。

「小平の住民投票開示裁判でシンポ 市民参加の裾野拡大を」TOKYO WEB 2015年12月15日

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